幸せはそこにある:南ファミリ―劇団@新道しるべ(9/19)

2021年も残すところ数時間。
ツイッター上では、大衆クラスタの皆さんの「今年のベスト芝居」などがつぶやかれ、そうすればおのずと自分の1年の観劇生活も振り返るというもの。
涙しどどに感動したお芝居、ひーひー笑い転げたお芝居、舞台なめてんかぁ! と腹立ったお芝居(笑)などいろいろあるけど、幸せ観劇体験ベスト1はぶっちぎりであの劇団。

香川はまんのう町に拠点を置く、南ファミリ―劇団です!!!

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車がびゅんびゅん走る街道沿いにある「新道しるべ」。琴平駅からは車で5分程度。


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役者幟や看板がなければ、この落ち着いた佇まいの建物のなかに劇場が広がってるとはたぶん思わない。ワクワクしてきた……!

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ロビーには座員さんたちの写真がずらり!初見の人間にはありがたいし、なによりテンション上がる!

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パリ公演でのお写真も。凱旋門をバックに二代目と三代目座長。

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カギを開けてしまう桃太郎くん(1歳)。

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会場の様子。整然としたセンター、という趣で、センター慣れしている関東民はおのずと落ち着く雰囲気。

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きょうだいの末っ子、ご存じ美山で活躍中の花太郎さんのタぺもちゃんと飾られているのがほほえましい。


ロビーに入るなり、劇団側の「楽しんでもらいたい」精神があふれていて、私はいろんなゾーンに足を踏み入れるたびに、「きゃーー!」とか「ぴゃーー!」とか興奮のあまり奇声をあげていた。
固有の劇団の本拠劇場、ということは、その劇団の色で完全に構成された空間であるわけで、いわばここは「南ファミリ―劇団ランド」。そうなると、まだ見ぬ役者さんたちのタぺも、ミッキーやミニーのそれのように手を振りたくなるような慕わしさが湧いてくるというもの。

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公演はお食事とセット。天ぷら・お刺身・煮物……と品数多め♪
おなかを満たし、体の芯がほどけてリラックスしたところでお芝居スタート!

今月(月替わり)のお芝居は『涙の舞扇』。丘さくらさんと丘すみれさんのW主演!女優さん主演のお芝居は嬉しい! 旅役者でありながら実は……という役どころのおふたりはとても溌剌としていて、ほかの座員さんも皆、ともかく誠実さほどばしるお芝居をされる。

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三代目座長・山口英二朗さんはキーになる隠密の役。口上での話す感じがもう、好青年のかたまり。
お芝居の要で客席の涙を誘う存在だった若君・松千代を勤めたのは座長の長女・丘らんちゃん。真ん中でばっちりポーズを決めているのは駐車場に出てしまう座長の長男・桃太郎くんだ!(カメラの気配を感じたらこのポーズって将来有望すぎるだろ)


それではショーのスタート!
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英二朗座長の女形はめちゃくちゃかわいい!!
なんというか、媚びとかあざとさとかゼロの天然の華のかわいさ。

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丘たんぽぽさん。明治の美人画みたいな嫋々たる風情。

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丘美智子さん。二代目座長のお母さま。
お芝居でも乳母の役をきっちり勤められていた。

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山口月太郎さん。きっかりとした「芸格」という文字が浮かぶ。

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持ち前の爽やかさで魅せる座長のポップス。

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山口金太郎さん。この満開の笑顔!

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丘すみれさん。抒情的な風情をたたえていて、いろんなお役が観たい!と思わせる女優さん。

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山口雪太郎さん。ほっそりとした姿の美しさ。

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座長の股旅! 股旅ラバーの私&友人歓喜

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月太郎さんとすみれさんの梅川忠兵衛。お芝居でもできそうなドラマチックさ。

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丘さくらさん。はじけるような笑顔がステキ。
宝塚星組の娘役・有沙瞳さんに似ている(好き♡)! と気づいてからは余計ドキドキした。

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たんぽぽさんと山口鯉太郎さんの姉弟舞踊。存分に決まっていたところへ――……
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キザったフードの人が割り込んできて……
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ジャジャーン! おふたりのお父さま・副座長の山口京之介さん。
超あるある展開でオチわかっているのに、フード取れた瞬間、爆笑してしまった(笑)。

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二代目座長の奥さまであり七人きょうだいのお母さまの丘奈々さん。
やわらかく豊かな笑顔。

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三代目座長の次女・丘すずちゃんとらんちゃん&未来の四代目・桃太郎くんの真剣なまなざし。

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二代目座長・扇子家玉四郎(せんすやたましろう)さんと3人のお孫さんたち。

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足の怪我のため舞踊は踊られていなかったけれど、お芝居で少し出られても目の覚めるような口跡のよさ! 明るくカンカンと天に抜けるような声音に五代目の富十郎さんを思い出したりして。お父さまの初代・山口英二朗さんの口跡も今に伝えられる素晴らしさだったそうで、親子三代で「一、声」を揃えられている。

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粋に賑やかにラスト!


南ファミリ―劇団の詳しい来歴や活動についての充実した記事は、下記から↓
二代目・三代目座長の活き活きとした語り口が堪能できる!
大衆演劇の入り口から[其之四十二] 親子4代、一家族が40年間芝居を続ける場所~「南ファミリー劇団」ロングインタビュー in 香川県まんのう町


大衆演劇は「旅をかけるもの」というイメージが強いなか、南ファミリ―劇団はこの土地、この場所で週末に公演をしている。
普段は皆さんそれぞれの家に住み、それぞれの仕事に勤しみ、日曜日になるとここに集まって芝居をし、踊りを踊る。

私はその在り方に、とてつもない豊かさを感じる。
だって、普段オフィスで顔を突き合わせている同僚が、週末にはかっこいいお侍や可憐なお姫さまに変身するなんてたまらなく素敵だ!

「舞台」が日常でありながら非日常でもある南ファミリ―劇団の皆さん。
だからなのか、座員の方々は、舞台に対して常に新鮮に、丁寧に、空間まるごとを「大切なもの」として接しているように見えた。

そしてそれは、お客さんにとってもそうだ。
お芝居の最中、敵役が刀を持って若様の背後に忍び寄るシーンで、「あっ、後ろ後ろ!」という切羽つまった声が客席から漏れた。
舞踊ショーでは、皆それぞれのペンライトを持ち寄って嬉しそうに振っていた。

大衆演劇が隆盛を誇る大阪は、劇場がひしめいていて、いうなれば選り取り見取り状態。
一方、ここまんのう町にある芝居小屋は新道しるべだけ。

あそこに行けばおいしいものが食べられて、楽しいお芝居、綺麗なショーが観られるよ――。
それがどれだけ日常を生きるうえでの希望になっているか、ニコニコとペンライトを振るお客さんたちの姿を見て、胸が熱くなってしまった。

コロナの影響のため、南ファミリ―劇団が2020年で活動休止と聞いて、ああついに見られなかった……とガックリした。
けれど、存続を望む声が強かったのだろう、今年1年間は公演継続となったと聞き、すかさず、今だ! と飛び込んだ今回の遠征。
そういう完全な初見のお客に過ぎない私が、座員さんのまじりっけなしの笑顔、お客さんのピュアな居住まいを目にし、ここにいるすべての人のためにどうかどうかずーっと続いてほしい……! と願わずにはいられない景色がそこには広がっていた。

舞台に立つ演者の人たちと、客席に座るお客さんたちが、同じくらいの温度でこの場所を愛してる。
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舞台とは、そこにいる人がそこにいる人へ、手づから手づへ渡すもの。
そんな「演劇」の原初的な風景が見られる空間。

人はそれを「幸せ」と呼ぶのです。