レイ子のゆくえ:新風プロジェクト革新 #1『寝盗られ宗介』再演@篠原演芸場(5/11)

◆大衆演劇版『寝盗られ宗介』2022年から日本文化大衆演劇協会の主催で開始された新風プロジェクトは、お客さんからの脚本募集等でこれまでさまざまな新作を世に送り出していた。しかし、その一連の企画のなかで、日本演劇界の有名作を大衆演劇役者が主体とな…

権次の義侠心:劇団炎舞『上州土産百両首』@けやき座(4/29)

大衆演劇を観て数年、という人であれば1回くらいは『上州土産百両首』は観たことあるだろう。O・ヘンリーの小説をもとに昭和初期に歌舞伎で初演された本作。主演は、六代目尾上菊五郎と初代市川吉右衛門という大名優同士。けれど、物語内容的に当の歌舞伎よ…

持続可能な大衆演劇:劇団美松『ヤクザ男が目に涙』@篠原演芸場(3/19)

大衆演劇のお芝居は、あらすじを書いたら3行で終わらせることもできる芝居が多い。劇作もする友人が、その芝居の特徴を「余白が多い」と喝破したけど、たしかに、その3行の間にたっぷりある余白を役者さんの芸で10行分にふくらませていける点が、この芸能の…

立ち上がるおきぬ――藤乃かなが描く世界:新生真芸座『沓掛時次郎』@庄内天満座(5/7)

彼女は立ち上がる。懇親の力を振りしぼって。彼女は立ち上がる。明確な意志をもって。彼女は立ち上がる。一人の人間として。--------------------------------------------------------------------------------------2022年の末日、今年の芝居を振り返ると…

大衆演劇の魅力ってなんだろう?と改めて考えてみた:新風プロジェクト革新 #0

私は歌舞伎というものは、こういうものだと思っていたんです。つまり非常に美しい花である。この美しい花はどこか毒々しいのである。気味が悪い、それも綺麗なチューリップやバラならいい。けれども何か不思議な牡丹のような花、あるいは不気味は食虫類のよ…

弥太郎の手:劇団美松『関の弥太っぺ』@篠原演芸場(1/5)

お芝居を観ていると、ときどき、あ、私このシーンずっと忘れないだろうな、と思う場面に出会うことがある。それはもちろん、ここぞという見せ場、いわゆるしどころのある場面であることが大半だ。けれど、そうではなく、本当にさりげない、芝居の主筋には関…

幸せはそこにある:南ファミリ―劇団@新道しるべ(9/19)

2021年も残すところ数時間。ツイッター上では、大衆クラスタの皆さんの「今年のベスト芝居」などがつぶやかれ、そうすればおのずと自分の1年の観劇生活も振り返るというもの。涙しどどに感動したお芝居、ひーひー笑い転げたお芝居、舞台なめてんかぁ! と腹…

私たちは共闘する――大衆演劇のシスターフッド:橘劇団@けやき座(6/20)

大衆演劇の世界において「女優である」=「女である」ということはどれだけ熾烈なのか、という話をよく友人たちとする。座長は圧倒的に男性のほうが多く、男優さんに比べればお花がつく機会も少ない、着付や炊事といった裏の仕事も基本女性、おまけに芝居に…

耳に残るは君のハンチョウ――2020年の芝居小屋で思う

はんちょう/ハンチョウ/ハンチョ【名】舞台上の役者さんに対して、客席からかけられるかけ声です。たとえばショーのタイミングで座長の名前を呼んだり、名台詞のタイミングではやし立てたりするようなものです。(略)もともとは客席からのヤジ、かけ声を…

笑いと血潮:劇団炎舞『河内十人斬り』@篠原(11/21)

笑うことも、泣くことも、食べることも、殺すことも、すべて自然に隣にある。劇団炎舞@篠原演芸場(2020/11/21)お芝居『河内十人斬り』城戸熊太郎:橘炎鷹谷弥五郎:橘佑之介松永寅次郎:橘鷹志熊太郎女房おぬい:橘麗花弥五郎妹おやな:橘そらり松永伝次…

豊穣かな豊穣かな:劇団翔龍×劇団新『金太一番手柄』@けやき座

くうううううううううううっ!!脳内でもだえた。芝居小屋に通っていると一年に何回かはある、「今私、アドレナリン出てるー! \(°∀°)// 」という至福の状態。劇団翔龍と劇団新による『金太一番手柄』の一幕終盤で、私は一人、マスクで口元が隠れているのを…

そのように生きる――たつみ演劇BOX・辰己満月さんのこと

これは、2019年1月、つまり1年以上前に書きかけた記事である。特に理由もなく上げそこなった記事というのは、結局ずっと下書きフォルダに眠ったままでそのまま静かに昇天していくのが常なのだが、ふとアップしたいと思いたち、久々にブログを立ち上げた。---…

第四幕はここで――喫茶店・樹林のこと

大衆演劇の劇場には名物がある。有名どころでは、篠原演芸場のおにぎり、鈴なり座のたこ焼き、ぶらくり劇場のおでん、などなど。じゃあ、横浜の三吉演芸場の名物はなんだろう。ペンギンのイラストがかわいいオレンジ味のアイスキャンディー・三吉アイスもいい…

光の源――橘光鷹さんのこと

自分にとって、役者さんというのは「出会っている」人と「まだ出会っていない」人の2種類がある。この「出会い」は物理的な意味とはちょっと違う。役に、その人が演じる「ならでは」の輪郭がはっきりと見えたとき、それが私にとっては真にその役者さんと「出…

「はじめまして」の扉――嵐山心次郎さんとつばさ準之助座長のこと

金曜日、朝からなんとなく浮足立って、めんどくさい仕事も鼻歌混じりでやっつけて、いそいそと帰社。ポイポイ適当にボストンバッグに荷物を詰め込んで、23時、夜行バスに飛び乗る。遠征――この甘美な響き。。非芝居クラスタに、夜行バスで遠征してくる!と言…

傷だらけの八百屋:劇団新『喧嘩屋五郎兵衛』@大島劇場(2/3)

とある座長さんに、何気なく「五郎兵衛はおやりにならないんですか?」と聞いたことがある。その役者さんに実にピッタリだと想像していたからだ。すると思わぬ答えが返ってきた。「やりたいんやけど、八百屋できる人がおらんからなぁ…」。とある座長さんに、…

「敗者」という十字架:劇団炎舞『河内十人斬り』@けやき座(11/7)

彼が最後の力を振り絞って突き刺したのは、弥五郎?それとも……?劇団炎舞 橘鷹勝誕生日公演@立川・けやき座お芝居『河内十人斬り』熊太郎:橘炎鷹弥五郎:橘鷹勝松永寅次郎:橘光鷹熊太郎女房おぬい:橘麗花弥五郎妹おやな:橘姫花木こりえひめけん:橘炎乃…

無名の民衆の唄:劇団炎舞 橘炎鷹座長『船頭小唄』@浅草木馬館(7/2)

枯れた草の向こうに立つ、その人たちの顔は見えないわずかな風がもったりと揺れるような、そんなアンニュイな旋律が木馬館の暗がりに漂い出しました。島津亜矢さん歌う『船頭小唄』です。劇団炎舞@浅草木馬館橘炎鷹座長『船頭小唄』俺は河原の 枯れすすき同…

再びの蒸し風呂!:劇団炎舞・浅草木馬館公演カウントダウン

そこのキミ!「ジワ」って言葉知ってるかい?歌舞伎用語なんだけどね、ビックリするほど綺麗な役者さんが出てきたときとかに、客席が「……!」って息をのんだ音が波(=シワ)のように劇場中に広がっていくことを言うんだ!(ちなみに、ワタシは『二人椀久』…

天保7年の笹川繁蔵:劇団炎舞『男華』@浪速クラブ(5/21)

侠客というにはまだ青い。けれど、その華は新芽に芽吹く。劇団炎舞@浪速クラブお芝居『男華』笹川繁蔵/飯岡助五郎:橘炎鷹座長洲崎の政吉:橘鷹勝政吉女房おせい:橘麗花国定忠治:橘魅乃瑠【あらすじ】ある日、侠客・飯岡助五郎(炎)のもとに、同じく侠…

ご贔屓ロスは突然に:妄想配役@劇団炎舞

♪あーの日 あーのとき あーのばーしょで きーみに会えーなかーったらー♪ ほんと、そうですね。 あの日あのとき川越で出会ってなければ、こんな気持ちになっていることもありませんでしたね……。 えっと――ロスってます\(^o^)/はい、炎舞ロスであります。 今…

小さく優しい龍の革命:劇団新――小龍優さんのこと

◆見たことがない人おもしろい「イキモノ」だなぁ。これが、優さんの第一印象だった。「イキモノ」だなんて役者さんに到底失礼な形容かもしれないけど、でもそれは、彼女が「今まで見たことがない」風情をまとっていたからこそ浮かんだ言葉だ。初見のお芝居は…

[2016年]私のこの5本―舞踊編―

完全に2017年ですが、めげずに2016年の舞踊5本!◆沢田ひろしさん『風の盆恋歌』@三吉演芸場(2/24)この命ほしいならいつでも死んでみせますわ 夜に泣いてる三味の音……生きて添えないふたりなら 旅に出ましょう 幻の……おわら恋唄 道連れに生涯忘れられない…

[2016年]私のこの5本―お芝居編―

人様のベスト芝居&舞踊を読んではニヤニヤしている今日この頃。私も簡単に総括!ということで、まずはお芝居編です。◆劇団新『平成に現れた森の石松』@けやき座(2/13)石松を演じた新さん。ベスト5の作品にはもちろんそれぞれ好きなところがあるのですが…

「侠」の字なんていらない:橘菊太郎劇団『遊侠三代』@けやき座(12/11)

ゆう-きょう【遊侠】男伊達。男子としての面目を立てるために、強きをくじき弱気を助け、仁義を重んじ、そのためには身を捨てても惜しまぬこと。 橘菊太郎劇団@けやき座 お芝居『遊侠三代』 ※人名は当て字、台詞はニュアンスです。あらすじ、役名に間違いあ…

身体で紡ぐ物語:劇団炎舞 橘炎鷹座長『佐渡の恋唄』@京橋(10/9)

身体が溶ける。(略) 身体の輪郭が消えていくのは、踊り手の身体のなかからあふれてくるものがあって、それが輪郭をこえて空間にひろがり、客席の私たちを浸していくからである。(略) 踊り手の身体の輪郭は、この劇場の空間にみちあふれた世界のなかに消…

唄の翼に:たつみ演劇BOX『夜叉ヶ池』@篠原(9/18)

お百合さん、一緒に唄をうたいましょうね これは、白雪姫の最後の台詞。学生時代、この台詞に何度となく励まされたことがあった。もちろん、言葉自体の意味が直接心を奮い立たせるわけではない。けれど、なにか苦しいときにこの台詞を思い浮かべると、不思議…

その先に花は咲く:劇団新『黄昏空の下で』・『花は咲く』@もさく座(8/28)

出会って、恋して、そして別れる「いつか」まで最近、興行ルートが変わってきている、という話をよく耳にする今日この頃。そんななか、関東を拠点に活動する劇団新が、しばらく関西周りをするとの情報が。その前に観にいこうと友人とともに行田へGO!この日の…

自慢じゃないが女優だよ:小龍優・橘鈴丸・辰巳小龍

「女」が「優れる」と書いて「女優」という。 圧倒的男性上位の大衆演劇界。どんなに美しくても、どんなにうまくても、どんなに舞台が好きでも、客席の嬌声は女優さんではなく、男優さんの立ちに、女形に向けられることが多い。でも、たとえなかなか日が当た…

素敵なあなたたち:劇団炎舞@篠原(7/24)

7月24日、日曜日のお昼。その日は、炎舞@篠原のマイ前楽でした。 場内に入ると、座椅子と座椅子が隙間なく埋められていて、ああ、お客さんいっぱい入ってるーーそんな安堵感とともにシャケおにぎりを頬張りつつ幕が開き。 お芝居は『江戸の朝焼け』。 貧し…